広島市議会議員(安芸区)

新生児のミルクの「ひとり飲み」

 
  新生児のミルクの「ひとり飲み」



 
  こんな元気な子どもに育って欲しいものです


 いい顔、ふやそう。沖宗正明です。
 医療現場で人手不足が深刻です。ある公的病院では、部長クラスの医師でさえ「名ばかり管理職」であり、勤務実態が過酷であることが指摘されて、労働基準監督署から改善命令が出されました。そんな人手不足を象徴するのが新生児のミルクの「ひとり飲み」です。看護師などの人手が足りないため、抱っこして授乳することができない状況が増えています。NICU(新生児集中治療室)は、その回復期病床と一体になっています。NICUでは新生児1人につき常時3人の看護師の配置が義務付けられています。ところが、回復期病床は一般病床と同じ扱いなので最高でも7対1です。7対1をクリアーできるのは最高クラスの病院だけです。多くの病院では回復期病床の夜勤では、1人の看護師が平均9−10人の新生児を見ています。当然、ミルクの「ひとり飲み」が増えます。ちなみに、保育所については児童福祉法で「保育士の数は、乳児おおむね3人につき1人以上」と規定されています。回復期病床とは言え、人工呼吸器を付けているなど、手がかかる新生児を多く抱えています。「ひとり飲み」には嘔吐や誤嚥の危険性が伴い、安全な授乳さえ危ぶまれます。厚生労働省は、保育所より低い看護師配置基準でリスクの高い新生児の安全な看護ができると考えているのでしょうか。
 2006年2月、日本の医療を根本的に変える事態が起こりました。2004年12月、福島県立大野病院で胎盤癒着の妊婦が大量出血で死亡した件について、約1年後の2006年2月に、執刀した医師が業務上過失致死と医師法違反の疑いで逮捕されました。この事件は医療界に大きな衝撃を与えました。多くの医師はこの事件を、不可抗力で妊娠に伴うリスクの中に入るものだと主張しました。報告書を見る限り、逮捕された医師は困難な状況に敢然として立ち向かい、大変な修羅場の中で一定水準以上の手を尽くしています。それを、結果が悪かったからといって、逃亡も証拠隠滅の可能性もない医師を逮捕したのです。この事件以来、産科医は相次いで救急現場から離れました。そして、いまわが国の産科救急医療、というより産科医療全体が完全に崩壊しました。さらに、一般救急現場でも医師は萎縮し、困難な患者を受け入れなくなりました。このことは検察、マスコミ、そして国民が等しく受け入れなければならない現状です。 
 パチンコ産業の市場規模は30兆円であり、ほぼ医療費に匹敵する規模です。葬儀関係の費用も10数兆円となっています。80年代初頭以降の、医療費が増えると租税、社会保障負担が増大し、日本社会の活力が失われるとの医療費亡国論による医療費抑制の理念はいまや完全に正当性を失いました。それでもなお、日本の医療は医療費抑制と安全要求という相矛盾する二つの圧力に曝されています。医療費抑制政策の中で、もはやこの国には医療を担うだけの体制が整っていません。少ないマンパワーで、十分な医療を提供できるはずがありません。これまでは医療従事者の献身的努力でクオリティを維持してきました。しかし、もはや一部の医療スタッフの肉体的、精神的ストレスは限界を超えてしまいました。わたくしの知り合いの小児科医は2年前に自ら命を絶ちました。昨年8月には、ある広島市民病院の49歳の外科医師が朝亡くなっているのを妻に発見されました。前夜は久しぶりに帰省した息子と楽しく酒を飲んだ翌朝のことでした。彼は優秀な外科医で患者の信頼も厚い人格者でした。過労死とも言える彼らの死には、わたくし自身もやりきれない思いで一杯です。
 4月から始まった「後期高齢者医療制度」を始めとして、厚生労働省の最大の目的は医療費の削減です。このような状況に医療側でも士気が低下し、「立ち去り型サボタージュ」が増えています。やる気をなくして医療現場から去ってゆくのです。1990年には産婦人科医の数は1万2920人でしたが、2006年には1万79人にまで減ってしまいました。
 わたくしは、厚生労働省の医療費削減政策は誤っていると考えています。国民の安全と健康を守りきれないと思います。皆さんはどうお考えでしょうか。