広島市議会議員(安芸区)

わたしが出会った殺人者たち

 いい顔、ふやそう。沖宗 正明です。
 しばらくベトナムの話が続いたので休題閑話と言いたいところですが、あまりにも重い内容になりました。
 

 快晴の日曜日です。昨日は国際ソロプチミスト広島−もみじの認証20周年記念講演会「人身売買をなくす」に参加しました。講師の大津恵子さんが、日本における人身売買の実態を赤裸々に語りました。貧しさから抜け出るために希望を持って来日した女性たちが、暴力団に食い物にされる現実がこの日本で起こっていることに衝撃を受けました。


 さて、表題に驚かれたでしょう。これは裁判傍聴業を自称する作家の佐木隆三さんの著書です。彼は世間を騒がせた事件の裁判をほとんど傍聴し、遭遇した死刑判決は100件を超えています。この本では18の殺人事件について書かれています。
復讐するは我にあり」の西口彰
千葉大女医殺人事件」の藤田正
「悪女の涙 逃亡15年」の福田和子
「連続幼女誘拐殺人事件」の宮崎勤
「108号 連続射殺事件」の永山則夫
「和歌山カレー事件」の林真須美
オウム真理教事件」の麻原彰晃こと松本智津夫
「奈良女児誘拐殺人事件」の小林薫
「深川通り魔殺人事件」の川俣軍司
「大阪池田小大量殺人事件」の宅間守
下関駅通り魔殺人事件」の上部康明
「黒い満月の前夜に」の尊属殺人事件などです。


 同情すべき環境に育った犯人もいれば、全く同情の余地のない犯人もいます。マスコミ報道とは全く違った実像の犯人もいます。
 
 計5人を殺害した西口彰は、佐木隆三自身の作である「復讐するは我にあり」で映画化されました。緒方拳の迫力のある演技をご記憶の方も多いでしょう。ラストシーンは死刑になった緒方拳の遺骨を父親の三国連太郎と嫁の倍賞美津子が展望台から撒くという印象的なものでした。佐木氏によると、実際にはそんなことはありえず、今村昌平監督の演出だったようです。


 藤田正は新婚早々から他の女性に狂い、妻帯者でありながらホステスと結婚の約束をするなど身勝手な理由で女医である妻を殺害しました。
 
林真須美はいまでも、無罪を訴え続けています。犯行に使われたヒ素と自宅にあったヒ素が同じものであった、カレーにヒ素を入れることができるのは真須美だけであろうと考えられる、などの状況証拠で有罪となりました。わたくしは、真須美を限りなくクロに近いと思います。しかし、「疑わしきは被告人の有利に」が裁判の原則ではないかと思います。 

麻原彰晃は現在、死刑執行を免れようと偽痴呆症を演じている姿が描かれています。実の娘の前でも、ここでは書けないような痴態を演じ、娘に見破られています。
 
 小林薫小児性愛と診断され、幼児にわいせつ行為を繰り返しました。自分では全く制御不能であったことがわかります。裁判所も「もはや矯正は不可能」と断じています。本人も早期の死刑執行を望みました。
 
 4人を殺害し、2人に重症を負わせた川俣軍司は出所後2か月で事件を起こしていますが、小心な実像が描かれています。
 
 児童8人を殺害し、児童13人と教師2人に重軽傷を負わせた宅間守は、マスコミ報道では反省のかけらもないとされていましたが、被害者に謝罪の気持ちを持っていた様です。また、犯行の途中で「もうやったらいかん、やめないかんと思って、そやけど勢いがあって止まらんかった。誰かに後ろから羽交い絞めにされたとき、やっとこれで終われるぅて、ほっとしたんや」と語っています。死刑を望んだ彼の最後の言葉は、獄中結婚した5度目の妻に「○○さん(妻の名)に、ありがとうって伝えてほしいねん」だったそうです。彼女は獄中結婚から死刑執行の日まで1年1か月、毎日のように面会に通いました。



 最も悲惨だったのは「黒い満月の前夜に」の栃木県の尊属殺人事件です。この事件だけは実名が伏せられています。29歳の女性が実父を絞殺した事件です。この女性は14歳のときから、実父から性的虐待を受けて父の子を5人を出産しました(うち2人は嬰児死亡)。同居の母さえもそんな行動を止めることができないほど凶暴な男でした。女性は職場の同僚との結婚を望み、父に打ち明けます。しかし、激高した父は許しません。仕方なく父の首をひもで締めますが、「殺るなら、やれ。おまえに殺されるのは、本望だ」という父の最後の言葉も悲惨です。
 この事件は最高裁で懲役2年6か月、執行猶予3年の刑が確定しました。尊属殺人事件としては異例の軽い刑です。この事件までは刑法200条に規定された尊属殺人は合憲とされ、厳しく罰せられました。しかし、この事件で違憲と判断され、以後刑法200条は死文化しました。そして、1995年の刑法改正で200条は削除されました。
 学生時代に見た映画「チャイナタウン」はフェイ・ダナウェイが父親の子を産む内容でした。「彼は私の弟です。そして私の息子です」というラストシーンは印象に残っていますが、この事件はこの映画さえも生易しく思えるほどの悲惨さです。

 
 イギリスの評論家、コリン・ウィルソンは「殺人者と他の人間との違いは程度の差であって、種類が異なるのではない」と述べています。人間とは追い詰められたとき、殺人という行為に走る狂気を持っているのでしょうか?ホーチミン市戦争博物館ポーランドアウシュビッツで見た残酷さはそれを証明しているように思えました。人間の本性を考えると今夜は眠れそうにありません。