広島市議会議員(安芸区)

しびれ薬による完全犯罪

 いい顔、ふやそう。沖宗 正明です。
 いよいよ本格的な夏になりました。子供たちも夏休みを謳歌しています。


 テレビ番組で筋弛緩剤を使った完全犯罪を扱ったものがありました。少々無理な設定でしたが、面白く見ました。筋弛緩剤は文字通り、体の筋肉を弛緩させて動かなくします。この場合の筋肉は自分の意志で動かせるいわゆる随意筋のことです。胃や腸などの内臓の筋肉(不随意筋)は含まれません。しびれ薬としてよく知られているものに、南方の土人が使う矢毒(クラーレ)があります。時代劇に出てくるような、飲んですぐに聞くようなしびれ薬はありません。


 筋肉が動かなくなるとどうなるでしょうか?手足や眼球を動かすことができなくなります。横隔膜や肋骨の間の筋肉(肋間筋)も動かせなくなるので呼吸ができず、死に至ります。筋弛緩剤は麻酔の分野で重要な地位を占めています。消化器の手術では腹筋が緩んでいないと、視野が狭くなるだけでなく、内臓が飛び出してきます。肺の手術では、胸腔内に針やメスがあるときに呼吸によって肺が膨らむと手術がやりにくくなるだけでなく、危険です。筋弛緩剤によって、このようなことが防げるのです。ただし、麻酔医による厳重な呼吸や循環系の管理が不可欠です。筋弛緩剤のアンプルには、はっきりと「毒薬」と書かれてあります。わたくしも麻酔医のころ、筋弛緩剤によって外科医に喜ばれる麻酔を心掛けたものでした。たとえば、肺の手術の時には、針が胸腔内にあるときは患者の呼吸を止め、針が上がるとバッグを膨らませて呼吸させました。外科医と麻酔医の連携です。


 さて、筋弛緩剤による完全犯罪は可能でしょうか?答えは、ノーです。プロなら見破れます。死因は呼吸筋マヒによる心肺停止ですが、注射の痕跡が残りますし、筋弛緩剤の代謝物が尿中に排泄されます。空想の世界で遊ぶだけにしておいてください。