広島市議会議員(安芸区)

恐るべし流行歌〜なごり雪・白夜・精霊流し

 いい顔、ふやそう。沖宗正明です。
 ゴールデンウィークも後半になりました。フラワーフェスタの初日に本部を訪ねた時、人出の話題になりました。途中の集計でしたが、昨年の約2倍の人出でした。昨年の初日は大雨だったことが大きく影響しているとのことでした。珍しく好天に恵まれたフラワーフェスタに、きょうも多くの人が訪れるでしょう。


 昨夜読んだ「不適切な日本語」(新潮新書)は興味深い内容が満載でした。著者はフリーアナウンサーで日本語検定審議委員の梶原しげるです。顔を見れば思い出せる人物です。この中で日本気象協会が募集した新しい季節の言葉36選に、3月の言葉として「なごり雪」が選ばれたことが書かれていました。「なごり雪」はシンガーソングライター伊勢正三による曲で、1974年にかぐや姫のアルバムで発表され、翌1995年にはイルカのシングルとして発売され大ヒットしました。2013年11月の「女性セブン」のアンケートでは、「思い出の名曲ランキング」の「泣ける名曲部門」でランキング第3位、「青春の思い出部門」では第1位となっています。サザンやミスチルユーミン松田聖子を抑えて堂々の首位です。発売当初は「なごり雪」という言葉が問題になったそうです。「粉雪」、「細雪」はあっても「なごり雪」という雪は存在しないので日本語の乱れを助長すると批判されました。「名残の雪」と変えることまで提案されました。伊勢正三自身は「なごり雪」にこだわり、曲名を変えませんでした。曲はヒットしても自分の中にはももやもやが残りました。それから40年たって気象協会の「季節の言葉」に選ばれて、胸のつかえが下りたと語っています。



 また、「白夜」の読み方は「びゃくや」と考える方が多いと思われますが、国語辞典では「はくや」と「びゃくや」が記されています。1960年代までは両者が同じくらいに用いられていたようです。これは森繁久彌が作詞・作曲し、加藤登紀子が歌った「知床旅情」が大きく影響しているでしょう。「はるか国後にびゃくやは明ける」との歌詞があります。


 「花街」はどうでしょうか。かつては「かがい」との読み方が一般的でした。1972年発売の三善英史が放った「円山・花街・母の町」で「はなまち」と歌われたことから流れが変わりました。これを決定的にしたのが、金田たつえの「花街の母」でした。今でも辞書には両者が併記されていますが、「かがい」と読まれるのを聞いたことがありません。「家並」も辞典では「いえなみ」と「やなみ」が併記されていますが、使われるのは圧倒的に「いえなみ」です。もうお判りでしょう。1971年の小柳ルミ子の「わたしの城下町」の影響です。作詞家の安井かずみがあえて「いえなみ」と歌わせたことで「やなみ」を叩き潰しました。


 精霊流し」はわたくし自身、「しょうろうながし」だと思っていました。さだまさしのヒット曲名が刷り込まれています。これも三省堂国語辞典広辞苑では「しょうりょうながし」です。「悪霊」、「生霊」も「りょう」です。「しょうろうながし」は「灯篭流し」との混同も影響しているかもしれません。NHK日本語発音アクセント辞典は1998年の初版以来、50版を重ねている隠れたベストセラーです。NHKに限らず放送関係者のしゃべり手の必須アイテムです。ここでも「しょうりょうながし」が支持されています。
 
 ちなみにこの辞典では「分泌」も「ぶんぴ」と「ぶんぴつ」が拮抗しています。わたくしは「分泌」は「ぶんぴ」と読み、「分泌物」となると「ぶんぴぶつ」と読んでいますが、単なる習慣にすぎません。


 わたくしは議員になって初めてNHK日本語発音アクセント辞典を知りました。質問するときにはしばしばこの辞典でアクセントをチェックします。いかに自分のしゃべる言葉が「広島弁」の訛りが強いかを思い知らされました。この辞典は日本語の「揺れ」や「変化」に柔軟に対応しているというか、振り回されているかが判ります。


  「不適切な日本語」で、流行歌が日本語を変えることに改めて気づかされました。流行歌恐るべし。


 そのほかにこの本には最近の平板化(線のラインと、アプリのLINEのアクセントの違い )や、謝るべきときにありがとうといったり、「〜になります」とか「〜で良かったでしょうか」など若者が使う怪しげな日本語を厳しく解説しています。その一方で「老眼鏡」を「シニアグラス」や「キャリアグラス」、「リーディンググラス」と呼び、「白髪染め」を「カラーリング」と言い換える知恵にも言及しています。


 また、「グラスが割れた」とか「テーブルが汚れた」など「自動詞表現」は敢えて責任の所在を曖昧にする知恵だが、ときには逆に「グラスを割った」とか「テーブルを汚した」という他動詞表現も必要だと述べています。大阪モノレールではアナウンスを「扉が閉まります」から「扉を締めます」と強制型に変えたところ威力が強まって客が従った従ったとのことです。

 蛇足ですが、スペイン語では自動詞表現が日本語よりはるかに多く用いられます。たとえば、「物を失った」とか「物を落とした」場合、主語を第3人称にして「物がなくなった」、「物が落ちた」と表現することによって、自分が欲しない形でことが起こったことを表現します。
 一読に値する本です。