広島市議会議員(安芸区)

ギャンブル依存症で106億円スった男

 いい顔、ふやそう。沖宗正明です。
 梅雨入り前だというのに、各地で真夏日の話題が聞かれるようになりました。しばらく嫌な季節ですね。


 表題に挙げたのは、大王製紙の前会長、井川意高(いかわもとたか)です。彼の著書「溶ける(双葉社)」を今回再読しました。ギャンブル依存症の実態がつづられています。とはいえ、106億円も負けることができること自体は稀有な例でしょう。その凄まじさをいくつか紹介します。


 書き出しは以下のように始まります(抜粋)。
「そのとき私の目の前にはチップが山積みされていた。総額20億円。10万シンガポールドル(日本円にして約780万円)と1万シンガポールドル(約78万円)のチップが何百枚と積まれる中、私はただひたすら飽き足りず、目の前のチップをどこまでも増やそうと目論んでいた。まだまだ。もっとだ。もっと勝ってるに決まっている。いったい今日は何月何日なのだろう。いつ食事を取ったのだろうか。酒は一滴も飲んでいないし、ミネラルウォーターすらいつ口にしたのか記憶がない・・・・
 カジノのVIPルームで勝負をはじめてから、あっという間に48時間が経とうとしていたのだ。・・・・
 限られた者だけが入ることを許されるVIPルームの入り口は、ギャンブラーにとっては地獄の釜の蓋に他ならなかったのだ。まもなく、その激しく燃え盛る炎の中に自らが堕ちていくとも知らずに・・・・」


 著者は、「マジックモーメント(魔法の時間)」と呼ばれる奇跡的な連続勝利を経験しています。マカオでのことです。300万円が600万円に600万円が1200万円に、1億、2億、5億と勝ち続けます。一縷の望みをかけて叩きつけた300万円が、とうとう7億円までハイパー・インフレーションを引き起こしました。シンガポールで20億円勝ったときのスタートの金額は150万円でした。
 しかし、その7億円はわずか1時間でゼロになりました。


 マカオのVIPルームに入れる者には、ジャンケットと呼ばれるコンシェルジュとカネ貸しを兼ねた人物が付きます。遊びや食事や女性など、たいがいのわがままを聞いてくれます。ジャンケットは自らの判断でそれぞれの顧客の融資額を決めます。全額無利子です。カジノ側からバックマージンが入るのだろうと、著者は書いています。


 また、カジノの周囲には質屋を偽装したカネ貸しが林立しています。初日にして全ての種銭をスッた著者は、翌日の朝10時の開店と同時にロレックスショップに行きます。そこでブラックカードでド派手なロレックスを10個買います。総額3000万円。それを質屋に持って行きますが、引き取り額は45%で1350万円にしかなりません。このときは大勝ちを収めました。ド派手なロレックスに興味がない著者は、質流れにしようとしますが、ジャンケットに反対されて引き取ります。そのうち2個をジャンケットとその友人にプレゼントしたそうです。しかし、有価証券の役割をする、残り8個のロレックスは日本とマカオを往復しているうちに最終的に質流れとなったそうです。


 マカオシンガポールに通っていた当時、コーヒーしか口にせずに36時間連続で勝負するのが当たり前でした。著者は、「カジノのテーブルについた瞬間、私の脳内には、アドレナリンとドーパミンが噴出する。勝ったときの高揚感もさることながら、負けたときの悔しさと、次の瞬間の湧き立ってくる、次は勝ってやるという闘争心がまた妙な快感を生む。カネか時間が切れるまで、勝負はいつまでも続く。もし、私に仕事がなく、資金が無尽蔵にあるならば、何日だろうが何週間だろうがカジノで勝負したはずだ。」と述べています。


 著者は、子会社から借り入れた106億円のうち、返せなかった55億円が特別背任罪に問われ、4年の実刑となります。


 凄まじいまでギャンブル依存症の実態が描かれています。最後に著者は次の言葉で結んでいます。「一番信用できないのは自分。106億8000万円の代償として私が得たものは、かくも悲しい事実のみだった」

 
 いま、日本でもカジノ解禁へ向けた動きが加速しています。わたくしは断固反対です。ギャンブル依存症を増やすだけです。その対策がいろいろ論じられていますが、それなら初めからやるべきではありません。もし解禁するなら、かつての韓国が行っていたように、入所は外国時相手だけに絞るべきです。