いい顔ふやそう。沖宗正明です。
この時期の風が好きです。肌寒い中に爽やかさと哀しさを感じます。あの夏の暑ささえも懐かしく思えます。
秋風から連想するのは芥川龍之介の「鼻」に描かれた禅智内供(ぜんちないぐ)です。手を尽くしてやっと縮んだ鼻が一夜のうちに元に戻り、その長い鼻を秋風にぶらつかせながら物思いにふける結びも「もののあわれ」でしょうか。初めて読んだのは中学生の頃でした。その時はただユーモラスな小説にしか思えませんでしたが、この歳になると、内供の心の苦しみ、悲しみがわかるようになりました。
我が家から見える鉾取山に西日が差す様子は、秋の夕暮れ時のもの哀しさを感じさせます。そんなとき、新古今和歌集の三夕(さんせき)の歌を思います。
「見渡せば 花も紅葉も なかりけり 浦のとまやの 秋の夕暮」
「さびしさは その色としも なかりけり 真木立つ山の 秋の夕暮」
寂蓮
「心なき 身にもあはれは 知られけり 鴫立つ沢の 秋の夕暮」
日本人にしかわからない美意識でしょう。