広島市議会議員(安芸区)

フィリピン人家族の強制退去問題とペルーの友人

 いい顔、ふやそう。沖宗正明です。昨日は終日雨模様で憂鬱でした。しかし、雨は植物にとって栄養です。また、われわれの飲料水が確保できるので適当な雨量は歓迎すべきものでしょう。
 日本生まれのフィリピン人、カルデロン・のり子さん(13歳)と父母の強制退去問題で、両親はのり子さんだけを残してフィリピンへ帰国する意向を東京入国管理所に伝えました。母親は平成4年に、父親は平成5年にそれぞれ他人名義の偽造パスポートで入国しており、のり子さんは平成7年に生まれました。平成18年に両親の不法滞在が発覚し、強制退去処分を受けました。処分取り消しを求めた訴訟も昨年9月に最高裁で一家の退去処分が確定しました。その後、法務省は人道的な面を考慮して、異例ながら1ヶ月程度の短期間の滞在延期を繰り返し許可してきました。このたび13日までに両親が自主的に帰国する意思を示さなければ、17日に家族全員を強制送還すると通知しました。その一方で、森法務大臣はのり子さんだけは在留を認め、例外的に両親の短期間の再入国を認める配慮を示しました。そして昨日、両親だけの帰国が表明されたものです。
 この問題についてのマスコミの反応は大きく次のふたつに分かれました。つまり、(A)両親は偽造パスポートという悪質な手段で入国した。温情を優先するあまり、悪しき前例をつくるのはよくない。違法を見逃した場合、それが「蟻の一穴」となり不法入国が増え、犯罪を助長することになる。これは産経新聞の論調です。
それに対して、(B)これは政治決断が必要なケースだ。確かに不法滞在者には厳格な対応が欠かせない。しかし、この家族は地域社会に溶け込んで平穏に暮らしてきた。のり子さんも日本人として育ち、学生生活を送っている。このような家族を特別扱いしないのは前例に固執したあまりにかたくなな姿勢だ。今回はまず、人道的な立場から一家の滞在を許可すべきだ。森法相と麻生総理は決断して欲しい。これは日本経済新聞の論調です。中国新聞はこの中間の姿勢ながら、やや日本経済新聞に近い書き方でした。
 わたくしは、(A)の考えを支持します。日本に不法入国する外国人は年間約11万人です。日本は欧米に比べて入国管理が甘いといわれています。不法入国した外国人の多くは犯罪に走るか、または犯罪の犠牲者になります。この一家に特例を認めると、次々と特例を認めなくてはならないケースが出るでしょう。のり子さんは気の毒な例です。しかし、同情と法の運用は別です。のり子さんを救うのは別の方法で行うべきです。今後は母親の妹がのり子さんの面倒を見るそうです。
 「飢餓海峡」という水上 勉の社会小説があります。終戦直後、津軽海峡で起きた洞爺丸事件にまぎれて犯罪を犯した人物が事業に成功し、地元で尊敬される存在になります。新聞でその人物の写真を見たのが、事件直前に投宿した旅館の仲居です。その仲居は優しくしてくれたお礼を言うために犯人に面会するのですが、自分の地位を失いたくないために犯人はこの仲居を殺害するという内容の大作です。読者は、この犯人に同情するでしょう。できるなら、この犯人を許したいと思うでしょう。しかし、地域社会に溶け込み、社会に貢献したからといって、犯罪が消えるわけではありません。一時の感情で法を曲げることは決してすべきではありません。「飢餓海峡」のご一読をお勧めします。石川さゆりの同名の曲もこの小説から作られたものです。
 先日、近所に住むペルー人夫妻がわたくしと家内を夕食に招いてくれました。わたくしがスペイン語を少し話せることで近親感を抱いたのでしょう。奥様はほとんど日本語ができません。彼は3歳になる子どもを母国の両親に預けて、東広島市八本松で自動車関係のエンジニアとして働いています。異国に来て不安は大きいはずですが、しっかりと生きています。暖かい歓迎で、サルサメレンゲなどのダンスを教えてくれ、ペルー料理を振舞ってくれました。部屋にはカラオケセットがあり、夫婦で合唱していました。彼らの底抜けの明るさに癒される思いがしました。こんなところからでも、国籍が異なる者同士が理解しあえるきっかけができました。わたくしのスペイン語の先生である、こんな隣人を大切にしたいと思います。
 どちらも一所懸命生きてきたことには変わりがないのに、不法入国で退去処分となったフィリピン人、広島で明るく生きているペルー人。国籍とは何か。民族とは何か。考えさせられる問題です。