広島市議会議員(安芸区)

「がんよ、ありがとう」  俳優・入川保則の生き方

 いい顔、ふやそう。沖宗 正明です。


 今朝、とても爽やかな目覚めでした。昨夜読んだ「その時は、笑ってさよなら 俳優・入川保則 余命半年の生き方」のおかげです。こんな清々しい読後感は久しぶりです。入川さんは現在72歳。写真でも往年のダンディズムを感じさせます。今年の始めに末期の大腸がんと宣告されました。最初に出た言葉は「ついにお迎えが来なすったか」だったそうです。抗がん剤はもとより、一切の延命治療を拒否しています。以下、ちりばめられた珠玉の言葉のほんの一部を列記します。


◎精神と肉体が同時に滅ぶなんて、こんなありがたいことはない。がんよ、ありがとう。

◎生きてるだけで儲けもんだ。人生は楽しまなきゃ損だ。厄介なことが次から次へ起こるのが人生だ。それなら、俺は苦しいことを苦しくないと思って生きていこう。人生は苦を楽に変えること。自分の場合はそれが役者だった。

◎ひとつのことを50年やってごらん。しがみつくこと、クソ粘りすること、執念深くなること。それが戦後若い人たちに失われた性質の第一でしょう。

◎運をいかに引き寄せるか。すべてはそこにかかっている。もちろん努力をし、ある程度の実力は必要。運を逃がす方法は簡単です。「不平を言う人」は100%運を逃がす。

◎よく生きた者だけがよく死ねる。一つの道を何十年「やった」という感触があれば、大威張りであの世へ旅立てる。

◎親なんてあると思うな。親は義務教育を出してもらうまでのスポンサーだと思え。勉強ができるバカは世間に掃いて捨てるほどいる。成績はケツでも賢いやつを探せ。そんな奴と友達になれ。

◎伴侶に「精神的な同一化」を求めるのは大なり小なり男にはあるが、伴侶は最も近しい人だから、ズレも大きく意識される。それを避ける唯一の方法は、お互いが「相手に託す」感覚を持つことだ。ぼくの場合は70歳になるまでわからなかった。

◎女性から学んだ絶対的な真理を教えましょう。女性とは議論するな、女性には理屈で立ち向かうな、女性に逆らうのは絶対にダメ。人類の歴史は、理論武装した男が、女性の前に次々と敗れてきた歴史でもある。死屍累々。草むす屍。男と女の齟齬は、人類永遠のテーマです。

◎今の日本には、僕を含め、要らない老人が多すぎる。半分くらいいなくたっていい。それくらいバカがメシを食っている。仕事柄、会合なんかで政治家とメシを食ったりもしますが、よくぞまあこんなジジイに国政なんぞ任せているな、という人もいる。ごく一部の優秀な老人を除いて、われわれは後進に地位も時間も財産も譲り渡すべきだ。逆に養ってもらっているようでは、若い人たちに申し訳がない。僕はその先陣を切ってサヨナラしますから、どうぞ皆さんも続いてください。

◎きちんとした大人になるには30歳からの20年間、いい遊びをすることが大切だ。

◎今でもイギリス人を見て、「偉いなあ」と思う。「わたしはイギリス人である」ということを、自然なこととして受け入れながら成長している。あんなマズイものを食いながら、よく頑張っていられますよね。

◎女優さんというのは別です。気が弱い女優さんというのは存在しませんでした。「女優には逆らうな」。これは男の役者が、まず先輩から叩き込まれる第一の鉄則です。

◎植木 等さんが「サラリーマンは〜、気楽な稼業ときたもんだ」と歌っていたころの会社員は、くたびれた目はしていても、今のような陰鬱な目はしていませんでした。上役の悪口を言うにしても、陽気な酒のサカナにできるような快活さがあった。今の会社員の目は目標のない人の目だ。

◎初めて解読されたエジプトの象形文字には、「近頃の若者はナマイキだ」と書いてあった。

◎敗戦直後の日本人は、目は燃えさかり、活力にあふれていた。嘆いているヒマがあれば、知恵を絞り、手を動かしていた。昭和25年には、もう立ち直っていた。戦後5年です。これだけ進んだ現代なら、3年で東北は完全に復興するだろう。カギを握るのは、被災者の方たちの気構えです。頼りにならない「お上」なんてアテにせず、まずは自分たちで自分たちの故郷を立て直す。そのあと、政府や東電に落とし前をつけさせればいい。

◎また、戦後のバラックに戻るつもりでいれば怖いものは何もない。一番怖いのは、ココロのほうが先に貧乏になることです。


 
 入川さんの映画や、役者、舞台に対する深い洞察力にも舌を巻きました。邦画のベスト3は「浮雲」、「七人の侍」、「重盛君上京す」を挙げています。その論評はすさまじいものです。こんな凄い俳優のことをほとんど知らずにいたことを恥ずかしく思いました。
 最後に、結びの文章を紹介します。まもなく死を迎える人が書いた文章とは思えないほどの潔さです。こんなさわやかな最期を迎えたいものです。



 僕も僕なりに、「命なりけり」というシーンに何度か出くわしてきました。早い話が、充分に生きたんです。やがてすべては、虚無に還っていきます。僕もそろそろ、帰る時がやって来た様子。さあ、幕を下ろしましょう。ロング・グッバイ。ここまで読んでくださり、まことに有難うございました。



新しく購入した本
1.公安は誰をマークしているか  新潮新書
2.バチカンの聖と俗  かまくら春秋社
  著者は平成18年から4年間、駐バチカン大使を務めた方です。バチカンとは何か。日本外交のあり方にも敷衍します。
3.予兆とインテリジェンス  扶桑社
  ご存じ、佐藤 優の著者です。8月16日、菅前総理が購入した5冊の本のうちの1冊です。菅さんには間に合わなかったようです。