広島市議会議員(安芸区)

B級映画の傑作「重盛君上京す」

 いい顔、ふやそう。沖宗 正明です。


 9月2日に俳優、入川保則さんの生き方について書きました。その中で入川保則さんが選んだ日本映画のベスト3のことがありました。きょうは少し敷衍します。


 まず、ベスト1の「浮雲」。成瀬巳喜男監督、主演は高峰秀子と森 雅之。脇を加東大介、岡田茉利子が固めています。原作は林芙美子。映画が原作を超えたとまで評しています。わたくしは、映画は決して文学(原作)を超えることはできないとの持論ですが、入川さんはここまで高く評価しています。小津安二郎監督が「俺にはこんな写真は撮れない」とまで言わせたそうです。森 雅之さんの演技は感服の一言とまで言っています。一方の高峰秀子さんは日本歴代の女優のナンバー1との評価です。「カルメン故郷に帰る」でストリッパーを演じたこと思えば、「二十四の瞳」では可憐な教師を演じています。この作品を入川さんは「This is 日本人」と評しています。だから海外での評価は高くないとの分析です。奇跡の映画であるともいっています。



 2番目の「七人の侍」はご存じ黒沢 明の作品です。世界共通の正義感を扱ったものであり、世界的な評価を得ています。アメリカの「荒野の七人」はこの作品のパクリです。ユル・ブリンナー、スティーブ・マックウィーン、ジェームス・コバーン、マンダムのCMでブレイクする前のチャールズ・ブロンソンも出演しています。



 さて、ナンバー3のB級映画「重盛君上京す」のDVDを早速取り寄せて見ました。昭和29年の作品で、主演は41歳の森繁久弥。森繁をひっくり返して重盛君という、いい加減さがたまりません。脇には柳家金語楼三木のり平横山エンタツ笠置シヅ子、若き日の高島忠夫も美男子ぶりを発揮しています。意外だったのが音楽プロデューサー役の田中春男です。昭和29年のころでありながら、ネクタイの結び方や着こなしなどのファッションセンスには舌を巻きました。岩手県から上京して歌手を目指す、ズーズー弁の若者を演じる森繁久弥の演技には抱腹絶倒の喜劇でした。
 後年、入川さんが森繁さんに「先生の作品の中では、あれがいちばん好きです」と言ったら、当人は「あれ、俺は嫌いなんだ。お前はバカだ!」と怒ったそうです。入川さんは、「先生ご自身にもわかっていたはずです。ああいった演技は、もう二度と自分にはできないだろう、ということを。あの作品くらい生き生きした自分の顔は、もう出せないということを役者自身が一番わかっているものです」と冷徹な分析です。プロの凄みを感じさせる批評でした。


 他の森繁久弥の喜劇を見たくなり、「のんき裁判」と「腰抜け二刀流」を注文しました。