広島市議会議員(安芸区)

裁判員制度の問題点(1)

 いい顔、ふやそう。沖宗正明です。
 今日からは裁判員制度の問題点を書きます。問題点の一番目は実施し負ければならない必然性がないということです。平成18年12月の読売新聞の調査によると、「裁判員をやりたくない」と答えた人は75%にも上っており、2年前の前回調査より6ポイント増えています。逆に「裁判員をやりたい」と回答した人は6ポイント減って20.4%となっています。やりたくない理由で多いのは「有罪か無罪かを的確に判断する自信がない」、「刑の重さを決める量刑を的確に判断する自信がない」、「人を裁きたくない」、「人を裁く自信がない」などで、しごくまっとうな感覚だと思われます。裁判員制度推進論者には、「裁判官の判断は非常識だが、国民の判断は常識的で信用できる。」「国民を裁判に参加させれば判決に健全な社会常識が反映できる。」という根拠のない信念が根底にあります。健全な社会常識とはなんでしょうか。義務教育修了だけを資格要件にしてくじで無作為に選ばれた、その場1回限りの素人の判断が、専門的な資格を持ち、何年も訓練と経験を重ねてきた裁判官より常識的である、信頼できると言えるのでしょうか。裁判官の任命コースは司法試験に合格し、司法修習を終了し、判事補任命後10年を経て、初めて裁判官となれます。そして、裁判官に任命されても5年未満のものは単独で判決を出すことができません。裁判官に対してさえこれほどの責務を課しています。なぜ素人である裁判員の資格要件は義務教育卒業程度だけなのでしょうか。これでは裁判官と対等な議論などできるはずもなく、模擬裁判で見られたように裁判官の思うところへリードされることになるでしょう。
 国民が嫌がっているにも関わらず、無理やり運用するために裁判員法には膨大な罰則規定が盛り込まれています。
 裁判員が評議の秘密その他職務上知りえた秘密を漏らしたときは、6ヶ月以下の懲役か50万円以下の罰金。この守秘義務は一生続きます。
 裁判員候補者が調査票に虚偽のことを書いて裁判所に提出したり、裁判員選任手続中の質問に虚偽の陳述をすると50万円以下の罰金。
 以下の場合には10万円以下の過料です。呼び出しを受けた裁判員候補者が裁判員等選任手続期日に正当な理由なく出頭しないとき。裁判員が正当な理由なく宣誓を拒んだとき。裁判員が正当な理由なく出頭すべき公判期日等に出頭しないとき。などです。
過料は罰金と異なり、裁判所だけで判断される一種の制裁であり、刑罰ではないため前科にはなりません。しかし、落ち度もないのに勝手に呼び出され、出頭しなければ10万円とはあまりに国民を愚弄したはなしです。その他にも様々な罰則が設けられています。

 職場の宴会でも、自分が裁判員として担当した事件のことはうかつにしゃべられません。ライバルの密告によって罪人となる可能性があるからです。裁判員として経験したことを一生胸に秘めておかねばならず、相当のストレスになります。落ち着いて酒も飲めません。裁判員制度は密告社会となる可能性すら秘めています。
 それに引き換え、裁判官には守秘義務に関しての罰則がありません。裁判官は元々プロなので秘密を暴露することはないとの前提なのでしょう。
昨年2月テレビ朝日の「報道ステーション」で元裁判官が秘密を漏らしました。昭和41年、静岡県清水市で起きた4人殺害事件、いわゆる袴田事件で第1審を担当した当時の静岡地裁の裁判官が番組の中で次のように語りました。「自分は無罪の心証を持っていたが、裁判官による表決で負けたため、心ならずも死刑判決を書いた」と。この告白は社会に衝撃を与えました。
 こんな法律を国民が望むわけがありません。国民が要望したわけでもないこの制度に必然性があるとは思えません。
 次回は裁判員制度憲法違反の疑いがあることを書きます。